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「実感としてあるってことか?」
宙太郎は哀しそうな笑顔をして伍火を見た。
「僕は人間を襲うなんてことはしたくないな。もしも僕が暴走したら……伍火が僕を退治してね」
「……そんなことにはならない」
伍火はもう宙太郎を追い返そうとは思わなくなっていた。そんなに寂しいのならいつまでもここにいればいい。自分のそばに。
体を起こし、しばし宙太郎の瞳を見つめた。手をのばして彼のこめかみ辺りの髪を指先ですいた。宙太郎は伍火の指の感触を愛しむように目を閉じた。
「……宙太郎」
伍火は宙太郎の後頭部を自分の方へと引き寄せる。片手に収まる小さな後頭部の感触を感じながら、唇を奪った。
「んっ……」
宙太郎は抵抗しなかった。やわらかい唇の隙間に舌を差し入れ、歯列を舐める。薄く開かれたそこに舌を送り込み、宙太郎の舌を絡めとる。
「は…んっ…ん」
宙太郎も答えるように伍火の舌に絡ませてきた。互いの唾液を交換しあい、宙太郎の唇を存分に貪ってから解放してやった。宙太郎の頬に桃色が差している。
「伍火は、僕がかわいそうになった?」
違う、とはっきり否定してもよかった。けれどではどう違うのかと自分の中で自問しているうちに、宙太郎が先に口を開いてしまった。
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