Chapter3

20/20
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
「オレよりずっと幼い頃から苦労してたんだな」  妖怪を退治した後、周りからは褒められたが哀しさがどこかに残っていたとも書かれてあり、七歳までの出来事で一冊目のノートは終わっていた。最後はこんな風に締めくくられている。 ――人とは違う能力を身につけるというのは人の領域から少し外れてしまうことなのかもしれない。でも絶対に忘れてはならないことが一つだけあると思います。それは愛です。私はそうだと信じたい。  ノートを閉じる。するとノートが不思議な光に包まれた。鋭さが一切排除されたあたたかな光だ。パラパラと勝手に捲れたと思いきや、次の瞬間、ノートは散華した。部屋に舞った紙片は、粉雪を連想させた。  二冊目を読もうとしたがどうやっても開くことができなかった。二冊目を読む時期はきっとこのノート、いや絹代が決めるのだろうと伍火は思った。  隣の宙太郎を見ると健やかな寝息をたてている。その規則正しい寝息が伍火に心ゆるびをもたらしていた。伍火は宙太郎の寝息が、自分の心に安らぎを与える効果があることを知り、そのなんとも不思議な感覚を追っているうちに、意識を手放し眠りについていた。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!