Chapter1

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Chapter1

 伍火(いつか)は、愛なんてひとつであるとは限らない。そう考えることで自分を楽にしてきた。  人間を好きになるという恋愛における愛しかたがわからなくても、この世界には多種多様な愛があるのだから大丈夫だと、自分の心を落ち着かせるのがこの頃の常だった。  人間は年頃になるとみな誰かに恋をする。想いを寄せる人間の動向に一喜一憂する。喜びを感じても憂いを感じても心臓が早鐘を打ったりするものだ。  しかし、そういったものは黒神伍火(くろかみいつか)にとっては薄い膜の向こう側にあるものだと思っている。半透明な膜の向こうが見えているのに触れることは叶わない。膜一枚隔てた向こう側の事象を感じられない。なぜそうなのかは知らない。ただそうなのだから仕方ないと諦めていた。  記録的な暑さだった真夏も終わりを告げ、日付の上では秋に突入していた。夏を感じさせる蒸し暑さはまだ続いており、制服の衣替えも始まったというのにクラスの半数が夏服のままだ。     
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