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Chapter2
伍火は滑り込みで教室に入り、何事もなかったかのようにアフリカ大陸の地図を黒板の端に掲げた。唇に宙太郎とのキスの感触が残っているのを心に隠し、授業を受ける。
おじいちゃん先生の大竹は、いつも通り教科書を持つ手が震えていた。
彼のしゃがれた声を聴きながらまだ白いノートの一番上に人類の拡散と進化と書いた。続けて簡単なアフリカ大陸の絵を描き、猿人の発生と文字を加えた。
人間の起源は20万年前のアフリカにあるという。猿人は原人へと進化し、アフリカを脱出してヨーロッパやアジアへと拡散した。
伍火は20万年前の地球を想像してみたが、もとより夢見る力が足りない。チンパンジーに似た猿人が、風呂敷包みを背負って大量に行進している残念な映像しか思い浮かばなかった。
「地球上に言語を介してコミュニケーションをとる生命体が人間しかいないのはほんとうでしょうか?」
選挙演説かと思うはっきりとした老教師の声に、伍火はハッとさせられた。他の生徒たちも眠気が飛び、同様のリアクションをとっている。
「猿人の化石からDNAを取り出し研究したら現代人と遺伝子上のつながりがなかったんです!」
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