Chapter5

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Chapter5

 土埃にまみれた体育服を洗濯するか、いや先に風呂かと考えつつ、まずは怪我の手当だと宙太郎をベッドに座らせた。 「これくらいの怪我どうってことないよ」 「自分を犠牲にするな」 「そんなことない。僕は伍火が無事ならそれでいい。伍火がいなくなったら僕は寂しさで暴走してしまうかもしれないけど、逆なら、誰も傷つけたりしないから」 「冗談でもそんなこと言うな」  もしも、妖怪が人間を欲するのが侵襲でなく依存だとしたらどうだろう。伍火の存在が失われたとしても、別の依存対象を見つければいい話になる。 「いま嫌なこと考えてるでしょ?」 「妖怪と人間の関係について真面目に考えていただけだ」 「違うね」  消毒をしようとした伍火の顔面をモフモフ尻尾が遮った。 「伍火はひとつの存在に執着するのが怖いんだ」  伍火は無言で宙太郎の尻尾をどかす。それから滅菌済みのガーゼを開封した。真っ新なガーゼの中央に半透明の軟膏を塗りつける。 「ねぇ伍火、僕と恋をしてください」  宙太郎は、いつになく真面目な口調で言った。伍火は答えない。宙太郎の視線を感じながら、手当を続けた。ガーゼを傷口に被せ、テープで固定する。その上に軽く包帯を巻いた。 「愛とか……」 「え?」 「親愛とかじゃダメなのか?」 「それは友達ってこと?」  伍火は頷く。しかし宙太郎がそんな答えで納得しないのは自分でもわかっていた。恋など知らないのではない。伍火は恋を知るのが怖かった。家族以外の存在に執着するなど、そんな怖ろしいことはできない、したくない。  宙太郎はそっと手をのばし、伍火の頬に触れた。ひと撫でして伍火の胸に飛び込んだ。幼い子供がしがみつくように、伍火の首に腕を回した。伍火は抱き返すことなく、ただ、宙太郎の冷んやりとした体温を感じていた。 「お祖父さんと二人暮らしって寂しい?」 「もう慣れた」 「そんなことに慣れないでよ」 「物心ついた時にはもう両親がいなかった」 「うん」 「小学生の時に祖母が死んだ」 「うん」 「それからずっと祖父さんと二人で暮らしてきた」  宙太郎は腕を緩め、伍火の顔を見た。細い指先を伍火の胸に当てた。 「伍火のここの、空いてるところに僕を入れて欲しい」 互いに見つめ合う。宙太郎は祈るように「寂しい気持ちを隠さないでよ。僕で埋めて」と言った。今度は伍火が宙太郎を抱きしめた。腕に力を込めると、満たされたような気持ちになる。 「死なないで欲しい」  伍火が思わず口にした言葉だった。 「大丈夫、僕は妖怪だからそんなに脆くない。君を一人になんてしない」 「約束できるか?」 「もちろん」  伍火は宙太郎をベッドに横たえた。存在を確かめるように頬を頸を、撫でていく。宙太郎が軽く吐息を漏らすと、その吐息を奪うようなキスを与えた。 「んっ……」  急く気持ちを抑えながら互いの衣服を脱がせていく。ベッドの下に丸まった衣服が捨て置かれていく。 「ふ、ぁ……んっ」  唇を離し、キスを頸筋から鎖骨、胸へとおろしていった。口づける度に宙太郎の白い腹がうねった。ベルトに手をかけズボンを脱がす。アンダーを押し上げているソコを優しく撫でてやった。 「アッ……」  布がしっとりと湿っていく。手を差し入れ直接握り、上下に扱いた。自分のソレも張ってきて痛んだ。ズボンとアンダーをまとめて降ろし、宙太郎のものと一緒に握る。 「ふ、ぁ、ンッ……ん」  宙太郎は伍火が与える愛撫を享受し裸の体をすり寄せる。下になったままの宙太郎が足を立て腰を浮かせた。そこが熱をもって苦しいというふうに掠れた声で呻く。伍火は宙太郎の乳首をきつく吸った。 「ッ……いつかっ……アッ――」  宙太郎はたまらず精を吐き出した。その姿を見て、伍火はさらに興奮した。宙太郎の甘い吐息に煽情されてしまう。ずっと消し忘れていた火があったような、自分にこんな感情が存在していたのかと驚きさえした。
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