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「――ああ、もう! 私らしくないわ!」
こんなに悩んでいる以上に、彼は多分何も考えていない。
少し便りが遅くなったくらいで、こんなに不安になったり、妙なことを考えてしまったりしている自分が、何だかとても悔しい。
彼は会えばきっと、能天気な笑顔を見せてくれる確信があるのに。
「……香彩の馬鹿」
ぽそりと呟く。
こんなに悩んでいることなんて、絶対知られてたまるものか。
「……あ」
北の空から、現れるひかりの軌跡。
趙飛燕の姿を認めたのか、鳥の声でか細く鳴いた。
ゆっくりと手のひらの上に降り立つ。
それは、優しい声で語られる便り。
今日の出来事や、失敗談、甘い囁き。
趙飛燕は再び空を見上げる。
月を見ていた。
それはほんの少し、月が好きになった日……。
<終>
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