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趙飛燕は趙姫と称される、水の国の魔妖の王の娘だ。
后が人であったが、趙飛燕はどちらかといえば魔妖の属性の方が強かった。
――月が真円を描く晩に、便りを送るよ。
まだ深みのない、けれど優しい声を思い出す。
「……忙しいのかな」
思い出されるのは、その笑顔。
自分より少し年下の、顔も動作もとてもかわいい人。
時々見せる『可愛い』とはまた違う『男性』の表情に、いつも自分の心は振り回される。
今ですら動揺を隠せないというのに、彼が大人になったらどうなってしまうんだろう。
楽しみな反面、こわいと思う自分がいて。
趙飛燕は小さく溜息をついた。
便りがいつもより遅い。
ただそれだけで不安になる自分を、初めて知った。
彼は……。
縛魔師だ。
しかも、彼の北の国で、一番強い術力の持ち主だ。
優しいその声も、害を成す魔妖ならば、なぎ払う刃へと変わる。
彼の存在を知ってから、月が嫌いになった。
その身体の中に秘めた毅いひかりと、喰らうことに対して優しく包み込んでくれる、そんな彼の本質が月のようだったから。
不安になる。
我慢をしてるんじゃないか。
想い、想われる人は。
彼と同じ『人』の方がよかったんじゃないのか。
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