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隣では手をつないでいるリオンがイヴを真似るように鼻を鳴らしていて、ジルは少し後ろをのんびりと歩いていた。
3人とも、もう変装ははぎ取って、ありのままの姿をさらしていた。
イヴとジルはともかく、リオンにはシシリアに着いたら新しいカツラか帽子が必要になるだろう。
そんなことを考えながら、イヴは胸のうちから強い感情が湧き上がってくるのを感じていた。
その感情のおかげか、標高の高い山でもイヴの身体はぽかぽかと暖かい。
なんて、幸福なことだろう。
イヴは笑みをこらえられない。
「ああ、わたし、もう正義の味方にはなれないわ。だって、こんなに大切なものがある」
弟のように可愛いリオン。そして恋人のような、家族のようなジル。
その二人への愛のためなら、なんだって出来る気がした。
「最初にいっただろう、イヴ」
歌い上げるようにイヴがつぶやいたその大きな独り言には、背後から返事が返ってきた。
その声の主へと、振り返る。
「なあに?」
そこではジルが、皮肉気な笑みを浮かべていた。
それは仕方がないとも、呆れたとも、そう言いたげな笑みだった。
しかしそれは、それらすべての感情を許容し、受け入れた笑みだ。
ジルは真っ直ぐと、イヴを指さす。
「諸悪の根源は、いつもお前だ」
その言葉にイヴは思わず破顔すると、リオンとつないでいた手を離した。
おかしくて、愉快で、笑いが抑えられない。
きっとこれからもイヴ達の前には苦難が待ち受けている。
事態は何も解決してはいないし、きっと、完全に解決する日など来ないのだ。
けれど、イヴは愛する者を掴んだ。
二人が居てくれれば、きっとどんなことだってなんとかしていけるだろう。
解決出来ない問題も、乗り越えられない障害も、お互いに笑い合って、支え合って、仕方がなかった、よく頑張ったと言い合える。
辛いことも悲しいことも、後悔も抱えて、笑って生きていけるだろう。
そんな確信が、イヴにはあった。
ジルの言葉に応えるように、イヴはその場でくるりと回ってみせる。
そのままスカートを摘まんで、丁寧な礼をした。
そこから上げた顔には、日向に咲く花のように美しい、艶やかな笑顔が浮かんでいた。
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