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声援、歓声、指令、応援、音楽、そしてアナウンス……音が洪水のように押し寄せる。
滲む汗を拳で拭うこともせず相手の握りしめる白球だけを見据える。
僕たちはようやくここまで来た。入部当初は“弱小野球部”と他校へ行ったかつての仲間たちにも揶揄られ夢を諦めかけたこともあった。それでも、ただひたすらにこの場所に立つという夢を追いかけてきた。
(あと、1点……ここで決めれば逆転勝利)
相手が腕を大きく振るう。
(来るっ!!)
ブン!!と大きくバットが走り、ほんの少し遅れてバシッ!!とミットに白球が収まる音がした。
僕は歯を食いしばりフルスイングしたが玉を捉えることはできなかった。だが、口元がにやけてしょうがなかった。
(やっば…今、めっちゃ楽しい!……次は、当たる)
再び相手が大きく腕を振るった。
カキーン!!!
声援、歓声、指令、応援、音楽、そしてアナウンス……全ての音が止まった。
その場にいる人々は皆息をするのも忘れて空を見上げた。
弧を描く白球はどんどんと飛距離を増し、ついに甲子園の空から消えた。
「……っ!逆転場外ホームランです!!」
自分の仕事を思い出した実況者のアナウンスを皮切りに人々の声の嵐が甲子園を包みこんだ。
そうして、長く短かった今年の夏も終わった。
選手の多くは今もまだ空を見上げている。
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