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四日目
朝。この館の主である老婆は、いつものように食事を作っていた。館に泊めている者の為に。
今、この館に泊まっているのは一人の若い男。老婆は一人分の食事を盆に乗せると、彼が寝起きしている部屋へと向かった。
彼はいつも、老婆が来る頃には目を覚ましている。ベッドの上に座り、自分の記憶を探すようにボーッとしていた。老婆が来ると、申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる姿が印象的だった。
今日も彼は大人しくベッドの上に座っていた。が、表情がいつもとは大分違う。あの柔らかな態度はどこへやら、まるで親の仇でも見つけたかのような鋭い目付きで睨み付けてくる。
「……何だい、言いたい事があるならはっきり」
「妻を、どこへやったんですか?」
老婆の言葉を遮るように、男ははっきりとそう尋ねた。
「妻?何の事だか」
「惚けないで下さい!俺、思い出したんですよ!」
どうやら男の記憶が戻ったらしい。いずれそうなるだろう事は分かっていたので、それほど驚きはない。
「一昨日、俺は別の部屋から女の声を聞きました。最初は分からなかったけど、今なら分かる……!あれは俺の妻ですよね?」
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