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片側二車線で直線が続く広大な道。普段なら車の交通量も多いのだろうが、今は車の気配なんて全くない。何故だろうかと考えてみたが、それはきっと今が深夜だからだろう。
寝起きで回らなかった頭が段々冴えてくる。
つまり、あのままだったらいずれ俺は車に轢かれて……。
サーッと全身の血の気が引く。
何で俺はこんな所で呑気に寝てたんだ?今まで何をしていた?
……駄目だ!思い出せない!考えても考えてもまるで頭に霧でもかかっているかのように霞んで消えてしまう。俺は一体、誰と、何処で、何を……
「え、あれ……?」
ここまで考えて、俺は漸く気がついた。
自分の名前すら、憶えていない事に。
「退きなって言ってるだろう!聞こえないのかい!?」
怒ったお婆さんが、何やらギャーギャー騒いでいるのが聞こえる。だが、真っ白になってしまった俺の頭には響かない。お婆さんの言うとおり、こんな道路の真ん中で居座っていると車の迷惑になってしまう。それは理解してはいるが、今の俺には立ち上がる気力は残っていなかった。
「……何だい、アンタ。そんな深刻そうな顔して」
お婆さんに何か問われたような気がしたが、俺はそれに答えるどころではない。
そんな俺の様子に、お婆さんは浅く溜め息をついた。
「もういいよアンタ。兎に角、私の家に来な!」
お婆さんはそう言うと、軽々と俺を持ち上げ、肩に担いだ。
「……え!?ちょっ…何を!?」
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