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それ程、年老いて見えるお婆さんだが、服装は結構個性的だ。ゴシック調というのだろうか。真っ黒の全身を覆うワンピースに、黒いネックレス。両耳には黒いピアスが光り、なんと室内だというのに大きな黒い帽子を被っている。
全身を黒で纏めたその姿は、さながら魔女だ。
「何見ているんだい」
「い、いえ!何も」
俺の視線に気が付いたらしい。ギロリと鋭い目付きで睨まれた。俺は慌ててスプーンに手を付け、熱々のスープを口に運んだ。
「じゃ、せいぜいゆっくり食べな。食べたら食器は持って来るんだよ」
まるで子どもに言い聞かせるようにそう告げると、お婆さんはくるりと扉の方へ踵を返した。
「あ、待って下さい!」
俺はそれを止めた。
「何だい?アタシは忙しいと言っただろう?」
「すみません、あの、その……俺ってどんな顔で、何歳くらいに見えます?」
俺はお婆さんの機嫌を取るべく、精一杯の笑顔を浮かべた。
記憶を取り戻すには、自分の姿形や年齢などの情報は必須だ。なるべく早く知っておきたい。
そんなもの、鏡を見れば済む話じゃないかだって?全くもってその通りだ。だが、驚く事にこの家には鏡が無いのだ。昨日の内に片っ端から探したけど、一つも見つからなかった。
なので、こうして尋ねるしかないのだ。
婆さんは俺をじっと睨むと、はっきり答えた。
「年齢は二十代後半から三十代前半ってとこじゃないかい?顔は……ま、平凡な造りだね」
そう答えると、足早に部屋を出て行った。
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