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下からムっとした顔で誠を睨んでいた菊乃が、プッと吹き出した。そして、ブリッジをするように体を起こすと、たちまち誠ははね飛ばされた。
「少しは上達したようだね。でも、まだまだだよ」
菊乃が笑顔で誠を見た。
起き上がりながら、誠はため息をつく。「その、上から目線やめてくれないかな」
「だって、実際上なんだもん」
確かに、背も姉の方がまだ高い。だが、それだけじゃない。すべてが、姉の方が上なのだ。そこから誠を見下ろしてくる。それが、うれしいような、悔しいような、自分でも理解できない気持ちにさせる。
「まあ、いいや。喉渇いた。ジュース飲もう」
姉が家へ向かう。慌てて後を追う誠。追いついた彼の頭を菊乃がごしごし撫でた。
見上げる家は、日本で住んでいたマンションがおもちゃに思えるくらい大きかった。自分たち家族の家ではない。父の職場が用意してくれた、出張中の住居だった。
日本とは違うからな、何もかも。家も大きいし、庭もある。塀で囲まれているのがうちの敷地だ。どうだ? 広いだろう。地域ケアプラザと同じくらいあるだろう。
実際にそうだった。2階建ての家は日本で見るものよりもずっと大きくて、一つ一つの部屋も広い。庭は、ちょっとした運動会くらいはできそうだった。
メキシコは、日本の5倍くらい大きいそうだ。だけど、人口はちょっと少ない。だから、一つの家族が使える場所が大きいのかな、と漠然と誠は考えていた。
父が仕事で赴任したためにこの地に来たが、メキシコでもけっこう田舎の方らしく、食料品などの買い物は、車で30分くらい山道を降りなければならない。だから、大型の冷蔵庫にたっぷり詰まるほどいつも買い込んでいる。
そろそろ次の買い物に行かなければいけない時期かもしれない。冷蔵庫のドアを開けると、ちょっと寂しくなっていた。
味の強いオレンジジュースを取り出した菊乃が、大きなジョッキになみなみと注いで飲む。誠は迷った末に、ミネラルウオーターを取り出した。
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