238人が本棚に入れています
本棚に追加
飲もうとした時、庭に凄い勢いで車が入ってくるのが窓から見えた。
うちの車――と言ってもそれも会社の物だが――だ。運転しているのは母。慌てて降り、こちらに向かってくる。
これまでに見たこともないほど蒼白な表情をしていた。
どうしたんだろう?
菊乃と誠が顔を見合わせた。とても深刻な状況だろうと考えられた。2人とも、それまでの笑顔が消え、不安そうにもう一度母を見る。
「菊乃、誠」母は玄関のドアを開けたまま上がり込むと、大声で子供達を呼んだ。「すぐに身支度をしなさい。お金とパスポートと、本当に大切な物だけでいい。急いでまとめて、車に乗りなさい」
え? また2人、顔を見合わせる。
どういうことだろう?
今日はこれから、日本人の家庭教師が来ることになっていた。その勉強がなくなるのは良い知らせだけど、この慌ただしさは、ただただ不安を煽る。
「さあ、急いで」
キッチンにいる2人を見つけた母は、これも生まれて初めて見るくらい険しい表情をしている。何も訊いたりできず、ただ、従うしかなかった。
2人の子供は、小さなディパックに必要な物を詰め込むと、言われるままに車に乗り込んだ。
日本製の車だが、かなり年式は古い。トヨタの何とか言うオフロード車だ。中は広い。後部座席に姉といっしょに座ると、まだ子供なら2人くらいは乗れそうだ。
母が運転席に乗り込む。そして発車。
急だったので、2人ともシートに頭をぶつけてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!