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恐くなった誠の手を、菊乃がぎゅっと握りしめてくれた。
彼女も不安だろう。だけど、誠が目を向けると、ぎこちないながらも微笑んだ。大丈夫だよ、と言っているようだった。誠は菊乃の手を握りかえした。
「よくつかまっていてね」
母の声が、遠くから聞こえてくるような気がした。
川沿いの道に出ると、急に後ろから、こちらのトヨタよりずっと大きな、たぶんトラックを改造したと思われる車が着いてきた。ものすごい勢いで迫ってくる。
母の横顔がさらに険しくなる。目は恐ろしいほどに血走っていた。アクセルを思い切り踏み込み、スピードをあげる。
トラックから逃げているのだ。
なぜ?
誠と菊乃は、2人して後ろを見た。
え? 同時に声をあげてしまった。
トラックの屋根に男が3人いた。寝そべるような感じで、こちらを見ている。しかも、彼らは銃を持っていた。自動小銃のようだ。
「伏せなさい、2人とも」
母が叫ぶ。同時に、トラックの上から銃弾が降り注いだ。
トヨタの後ろのガラスが粉々に割れた。それだけではない。母の目の前で、フロントガラスも割れる。
叫び声さえ出せなかった。姉と体を寄せ合い、うずくまる。目をつぶってしまったので、まわりの状況がわからない。だけど、確かめる勇気はなかった。
銃撃が続いている。トヨタが銃弾を浴びる音が、さらに子供達の理性も削り取っていく。
2人とも泣き出していた。
ガクンっと激しい振動が来て、2人の体が後部座席スペースを転がった。次の瞬間、車自体が転がっているのに気づいた。
水がものすごい勢いで車内に入り込んでくる。川に落ちてしまったのだ。
誠はパニックになった。どうすればいいかわからない。
「車を出るのよ」と母が叫ぶ。
だけど、どうやって体を動かしたらいいのか、わからなくなってしまっていた。
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