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不意の謝辞とともに、やっとこちらを向いてくれた彼女へ、喜びから僕は一層深く微笑みかける。
雪のように白い肌、冷たい瞳。一面の雪景色に立つ彼女の姿は、僕の瞳に映すには完璧過ぎる被写体だ。
そう言えば、こんな寒い日に眼鏡は曇ってしまわないのだろうか。
そうなってしまうと彼女の瞳が見えなくなってしまい、ただでさえポーカーフェイスな彼女の感情が全く読めなくなる。
とはいえ、それを聞くというのは流石にやぶさかではあったので、掛けている眼鏡から――実際のところはどうか分からないが――文学少女的な雰囲気を醸す彼女に質問する。
「最近、『愛しています』という言葉は、『月が綺麗ですね』と言い換えられる――なんて取り上げられたりするけど、雪が綺麗ですね、という言葉にもそんな意味があったりするのかな?」
空には太陽が燦然と輝いており、夏目漱石の文学センスに述懐を求めるにはまだ早過ぎる時間ではあったので、なら今使える言葉でと僕がそんなことを聞くと、急に何を言い出すのか、と怪訝そうな表情を浮かべつつ、素っ気ない口調で彼女が答える。
「さあ、どうでしょうか。探せばあると思いますよ」
こういう時こそネットを――と、そう思わないでもなかったが、しかし、そうして確かめるまでもなく、僕はその言葉にもそんな意味があると確信している。
雪は冷たい。
雪は白い。
でも、綺麗なんだ。
だから――
「いずれにしろ」
――カメラを前方に構えながら、僕の言葉を待つ彼女に、僕は柔和に微笑みながら言う。
「ユキは綺麗だね」
彼女の冷たい瞳が、少しだけ揺らめいた。
そんな気がした。
「……そうですか」
そう呟きつつ、カメラのレンズに視線を戻した彼女の横顔を、僕は満足気に眺めていた。
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