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「綺麗に撮れてる?」
「………」
雪がまばらに舞う冬のある日。
僕が傘を差して河川敷を歩いていたところ、前方に、同級生の少女が傘も差さずに写真を撮っていたものだから声を掛けてみたけれど、彼女は振り向きすらしてくれなくて。
それに多少の傷心を覚えつつ、それでも。
「何を撮っているの?」
僕は今、拒絶されている。というのは分かり切っていた。その上で性懲りもなくそんな質問をする。
というか、答えてくれるかどうかなんて正直考えてはいない。僕が彼女に抱く興味なんて一方的なもの。それに返答がなくとも、僕の自己満足は達成されている。
「……雪です」
雪のように冷たい声。
つまり、綺麗で澄んだ声。
思わぬ返答に、僕は表情を綻ばせる。
けれど、それでは気色悪いと思われてしまうかもしれないので、すぐに表情を微笑みに戻して。
「どうして雪を撮っているのかな?」
相変わらず僕の方に振り向いてはくれないまま、彼女は淡々とした口調で。
「親近感――でしょうか。単純に好きなのかもしれません」
親近感という言葉に、なるほどと納得を覚えながら、僕は彼女への質問を続ける。
「好きだから傘を? だとしても、風邪を引いてしまうよ?」
上下ともにそれなりの厚着をして、一応の防寒対策をしてはいるようだったけれど、カメラを持つ雪のように白い手は剥き出しで、寒そうだなと、そんな心配を抱く。
だから僕が差して来た傘を彼女に傾けて。
「要る? これ」
「要らないです」
あまりの即答にショックを受けながら傘を戻しつつ、それでも何とか振り向いてくれないかなと、次なる作戦を思い浮かべようとするけども、僕自身あまり人と話す方ではないので話題の引き出しは多くない。
ではなぜ彼女に声を掛けているのかといえば――まあ、単純な話ではなかった。
「……が、心配していただき、ありがとうございます」
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