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#5 虚しき願い
一夜明け、ジャングルには激しい雨が降っていた。
雨水が川の様に地面を流れ、薄暗い空に稲妻が走る。どうやら近くに落雷しているようで、大きな音がするたび、地面が振動した。
私たちが休んでいた洞窟の中にも、岩肌から漏れる水が何本も細い滝のようになって落ち、中はすっかり水浸しだ。
私たちも頭からつま先まですっかり濡れそぼっていた。
「あーあ、びしょ濡れだな。将希、体調はどうだ。寒くないか」
「平気です」
「しかしこれでは身体が冷えるばかりだな」
中将は灰色の空を見上げ、チッと舌打ちを零す。
「この雨で動きたくはないが、ここにいつまでもいるわけにも……」
言いながら中将は、心配げに私を見る。
しかし、この天候は敵から逃げる私たちには、最適の条件だった。
激しい雨と霧は私たちの姿をジャングルの中に覆い隠す。照りつける太陽に体力を奪われることもない。
だがその代わり、雨は身体から容赦なく体温を奪う。
彼が決断できない理由は、私の体調を気遣っているせいだった。
「伴行さん行きましょう。私なら歩けます」
私は身支度を整え、胸を張って中将を促す。
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