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それでも震える唇で、愛しい人の名前を呼ぶ。
「そうだ。これからはそう呼べ」
確かにこんな時に「中将殿」は色気がないかもしれない。だが、彼は私よりはるかに年上の男性だ。その彼を名前で呼ぶことにためらいを覚えたが、それより何より、特別な絆を自覚させる陶酔のほうが大きかった。
だが中将はそこで許してはくれなかった。
「そのあとに続けろ。『愛してる』と」
「ええっ!?」
羞恥に跳ね上がった心臓を鷲づかみにされるほど驚き、私の顔がますます火照る。
「だって中将殿、それって……!」
「中将殿、ではないだろう? 将希」
罰だ、と首筋を痛いくらいに吸い付かれ、また痕跡を刻まれる。
「あ……いたっ……!」
「教えただろう? 『伴行さん、愛してる』だ。言え、将希」
絶対に抗えない彼の愛の麻薬は、私を完全に支配した。調教じみた扱いで、心が裸にされていく。
たったこれだけを言うのに、私はどれだけの勇気を持たねばならないのだろう。嬉しいやら恥ずかしいやらで、穴があったら入りたいくらいだ。
「言えないか? 言えないなら、俺に抱かれたとまわりにわかるように、目立つところに痕を刻むぞ?」
いいのか?と意地悪く笑う中将には勝てない。恋は惚れた者の負けだ。
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