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実際、情事のだるさが腰に残る程度で、気分は驚くほどさっぱりとしていた。
今なら歩ける。
「早く海まで出て、本隊と合流しましょう」
本隊と合流すれば、少なくとも今よりはいい道が開かれるはずだ。
「そうだな。とにかく歩くか。だがおまえに無理はさせない。少しでも具合が悪そうなら、遠慮なくおぶわせてもらう。これは上官命令だからな」
なんとも素敵で甘い上官命令だ。
「はい、伴行さんには逆らいません」
しおらしい私の態度に、中将は「よし」というと、私の頭を抱きこんで、唇を奪った。
「栄養剤だ。続きはまた今夜な」
私たちは顔を見合わせて、互いに笑みを零す。
「よし、行くぞ」
雨の中を私たちは歩き始めた。
私は中将の一方後ろを、手を引かれて歩いている。繋いだ手のぬくもりが、昨日よりも嬉しい。
食料も水もないような場所で死ぬしかないと思っていた、昨日までの絶望はどこかに吹き飛んでいた。
やがて雨は徐々に弱くなり、雲の隙間から青空が見え始めた。
雨上がりの晴天は最悪だ。じめじめして気分が悪くなる。早くこの密林から海へ出たい。
中将もそう思ったのか、私たちの歩みが若干速くなる。
やがて視界が開け、向かい風に汐の香を感じた。
海だ。そばに海がある。目的地はすぐだ。
「伴行さん……」
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