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ユビサキの言の葉
「こんな所にいたのか……」
白い絨毯が敷かれた橋の上。ファインダー越しに、ぼんやりと川面に視線を落としていた眼鏡の少女が、近付いて来ていた俺の声に気付く。
──パシャリ。
そのちょうどよく、こちらを振り向いた彼女の瞬間を、すかさずカメラにおさめた。
「ちょっと、何するんですか、先輩……! 急に撮らないで下さいよ!」
赤色のネックストラップが、俺の視界に揺れる。首から提げていたカメラから片手を離した少女は、少し紅潮した顔をその腕で覆った。
「いやぁ、すまん。あまりにも絵になったからさ」
「はぁっ!?」
「ほら、お前の後ろにある枝。残っている花びらに雪の結晶がついて、すごく綺麗だろ」
俺の意地の悪い一言に、少女の頬がますます赤らんだ。鋭さを増した眼光が、こちらを射抜いてくる。
「あれ? もしかして、自分が被写体になったって、勘違いしちゃった?」
「しませんよ、そんなこと。先輩が風景しか撮らないってこと、私、知ってますし!」
怒った様子で顔を逸らした後輩は、再びカメラを持ち上げ、ファインダーに視線を戻した。虚ろに見えた先程の横顔とは違い、今度はしっかりと一瞬の時を捉えるため、その細い指はカメラを構えている。
──パシャリ。
静寂に満ちていた雪の世界に、軽快なシャッター音が響き渡った。俺の耳に残るその澄んだ余韻に、こいつはもう、大丈夫だという、確信を得る。
「これ。お前に届け物……」
俺はずっと握っていた一眼レフのカメラを、少女の前に差し出した。
「え、何で? カメラは先輩の宝物でしょ?」
「いや、これ、俺のじゃない。お前の兄貴の」
「お兄ちゃんの……?」
驚いたように目を瞠った少女は、しばし動きを停止した。ずっしりとした重厚感のある使い込まれた一眼レフのカメラへ、恐る恐るというように、ゆっくりと手を伸ばす。
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