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彼女と初めて出会ったのは、2年前の冬のことだった。
ホロホロと崩れて揺れる粉雪を、細い髪の毛の上にそっと乗せて、彼女はそこに立っていた。
観光名所でもなんでもない単なる街路樹にレンズを向けて、あーでもないこーでもないと360°様々なアングルを試すカメラガール。
変な人、と一瞥して通り過ぎようとしたのだけれど、どうしても気になって立ち止まってしまった。
カメラを持つその指が、風船みたいに腫れてピンク色になっていたから。
「お嬢さん、指、痛そうだね。手袋貸そうか?」
「えっ、あ…」
少女は突然レンズの外から聞こえてきた声に驚いてこちらを向く。
その目はメガネのフレームと同じ、きれいなまん丸になった。
「あの、お気遣いありがとうございます…。でも、手袋持ってるんで大丈夫です」
「そうなの?余計なこと言ってごめんね」
「いえいえ」
「でも、手袋って手に着けなきゃ温まらないよ?」
少女はまたキョトンとして、それからフフ、とすぼめた口から小さく漏らした。
そして、あどけない、けれどどこか大人びた表情になって、髪の毛に積もった雪をはらりと落とすように首を振る。
「いいんです。私、好きなんですよ。
人差し指の先が、カメラのシャッターボタンとキスする、この感触が」
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