さがしものはここにあるのに

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探しものはここにあるのに。 それは、僕の胸の中にある。 君の半分、欠けてしまっているそれ。 かつてはふたつで一つだったもの。 割られてしまった僕たちの恋。 古典的な呪いをかけられて、君は恋を忘れた。僕は告げるすべを奪われた。 伝書鳩のように、君は恋を探してこの部屋を出ていく。 そして、見つからなかったと息を吐いて戻ってくる。 かわいそうな君 あわれな僕 熱かった胸のなかの君は、日毎に冷えて僕の中で結晶する。 吐き出したい気持ちは、日々育って僕を突き刺す。 君の恋は、ここだ。 他の誰かを愛せるわけがない。 零したい声は僕の中でただ育っていく。欠けない結晶はついに僕の喉を塞いだ。 「声が?」 驚く君に、うなづく僕。 心配そうな君を安らがせる為だけに僕は微笑んだ。 だいじょうぶ。 唇だけで伝えると、そんなはずはないと君は叫んだ。 風邪かな、ストレスかも。 君を愛しすぎて苦しいんだ。 そう綴ろうとした指先は、鉛のように動かなくなった。 まっているひとがいるんでしょう? 伝書鳩を空に放つように、僕は君を手放した。 君の心はここにある。僕の中に。だから君は他の誰かを愛することなんかない。 けれどどうだろう。僕の中の君が冷えて結晶になったように、君の中の欠けたそれも、誰かが、何かが埋めてしまうのではないだろうか。きしりと音をたてて育った結晶は僕の胸を突きさした。 涙はでなかった。もう枯れ果てていたから。ただ横たわって、明日しなければいけないこと、したいことを考える。 仕事や洗濯、日々の細細としたこと、綺麗な景色をみること。そのどれの横にも君がいて、僕の中の結晶はますますぎしぎしと音をたてた。 一番したいことはなんだろう。しなければいけないことは。 君にキスがしたい。 呪われるまえは当然だった。失われてしまった習慣が僕のただひとつの望みだった。 叶うことのない願いなど思ってはいけないのに。
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