エピローグ

3/5
682人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
 宮殿のギャラリールームは展示も配置も様変わりしていて、足を踏み入れた瞬間から感嘆のため息がもれた。  普段は光が当たらないよう厚いカーテンが引かれている細長い回廊だが、今日はレースカーテン越しの白く柔らかな光を取り入れている。  直接光が当たっているわけではないのに、淡い壁の色や額を煌めかせることで回廊全体が明るい。  なにか秘密があるようだ──私はわくわくして1枚目の絵画の前に立った。 (青くて広い……吸い込まれそうな空)  どうやら絵画の中の光源と、この回廊の光の向きをあえて揃えているらしい。  長閑な田園風景、きらめく運河、広大な海……。 それぞれの絵の前に立つと、いま自分がこの景色の中に立っているような気持ちになって──。 (光で景色が輝いてみえる……素敵だわ……。そして懐かしい、私の故郷(ウェーリ)) 「あれ、エイミーじゃん?」  密やかに名前を呼ばれて振り返ると、そこに二人の淑女が並んで立っていた。 「……どちらさまで……、あっ! リリーさん?」 「よ。この間はどうもな」 「こ、こちらこそ! あの時は厚かましく押しかけた挙句ろくにお詫びもせず帰ってしまい……!」 「どなたなの、リリー?」  マダム・クレールはおっとり首を傾げ、「友人です」とリリーが穏やかに答える。 「まぁ、そうなの。お話があるようなら、わたくしは先に行きますね」  ごゆっくり、とマダムに会釈をされてしまって、私は慌ててお辞儀を返した。 (なんだか、マダムの雰囲気が……) 「な、な、もう見た? ゴルド・アッシュの『乙女』をさ」 「ううん、まだだけど……」 「やー、いいもんだったよ。ていうかやっぱりウチにあったやつは偽物だったんだなあーってわかって良かったよ。全然違ったもんな。でもさ、あの絵、実はかなり高く売れたらしいんだ」 「え? いや、あれは偽物じゃ」  周囲の目が気になって、声をあげられない。たじろぐ私にお構いなしに、リリーは上機嫌でしゃべり続ける。 「なんとか財団っていう芸術の教育機関? と取引したらしいんだけどさ。結構まとまった額が手に入ったんだと。おかげで奥様もだいぶ気持ちが落ち着いたみたいで、以前の優しい奥様に戻ってきた感じがするよ。手放した美術品もいくつか買い戻せたんだ。旦那様の思い出が戻ってきたみたいであたしも嬉しいよ」 「……そうだったの……」 「これから奥様と教会に行って、今日のとこを旦那様に報告するんだ。──良ければあんたも、またウチに遊びに来てよね」  流行りの──おそらくマダムのお下がりの──帽子の羽飾りをふわふわさせて、リリーは彼女の主人のところに戻って行った。 (……『乙女』が全然違うって、リリーさんたらどういうことかしら? クレール家の冬は本物の『乙女と四季』だったのに……?)  これはすぐにでも作品を観に行かなくては。私は少々順路をすっ飛ばして、(そら)の間へと急いだ。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!