写らない

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写らない

 彼女は、今日も来ている。彼女が持つには、少し古いカメラを持っている。  そのカメラで、決まった時間に、決まった方向を一枚だけ撮影して帰る。彼女の日課になっているようだ。  彼女が撮影しているのは、普通の・・・日本中探せば、どこにでも有るようなガードレールだ。T字路になっている場所で、左右が見えるように、カーブミラーが設置されている場所だ。信号は無いが、細い路地には、一旦停止の標識がある。彼女は、細い路地の桜の下から、カーブミラーが設置されている路地のガードレールを撮影している。  僕が知っている限り、彼女はあのガードレールを撮影し始めて、3ヶ月近くが経っているはずだ。  僕は、今日彼女に声をかけてみる。 僕「ねぇ毎日撮影しているけど何を撮っているの?」 彼女「写らないの・・・だから、毎日撮影しているの」 僕「写らない?」 彼女「うん。ここにね。パパとママとユウが写るはずなんだよ」 僕「え?」 彼女「だって、未練があれば、この世に残るのだよね?」 僕「え?」 彼女「パパとママとユウが、私を残して居なくなるのに、未練が無いはずがないよね?」 僕「あ!」     
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