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穏やかな風が吹き抜ける。
古い大樹を中心線としてデザインされた落ち着いた庭園。落ベンチの隣には吸い殻捨てのボックス。
--喫煙スペース。
ここ?社会福祉公社の施設は古い修道院の敷地を転用して造られたものらしく、使える建物は改装された上でそのまま使われる一方、分煙、禁煙を始めとした最近の風潮にも律儀に答え、わざわざ新規に増設していた。それも相当に凝ったデザインで。このような組織でもこういったものに金と手間暇を掛けるのはイタリア人らしいと思ってしまうのは、ドイツ人の僕の勝手な偏見だろうか。
普段の昼時は職員たちで騒めかしいが、何事もない日曜日の今日は基本的に閑散としており、それこそフルで働いているのは「彼女」が未だ眠っている病練のスタッフだけだろう。
彼女にとって希望の地であるはずだった社会福祉公社。
ラシェル・ペローの遺志と善意を実現するはずだった場所は、蓋を開けてみれば地獄の底だった。
力ない僕は彼女を血と硝煙と鉄の地獄に叩き込もうとしている。先日二人の義体の担当官であるマルコーに説明を受けた言葉の数々もうまく自分の頭に入っていかない。
条件付け。こどもの脳をぐじゅぐじゅに?きまわし、盲愛と服従を強要する洗脳。
戦闘による傷と大量投薬により蓄積される脳のダメージと破壊。
想定されて設計された3、4年程度の寿命。
「君は、どういう感覚でふたりと接しているんだ。耐えられなくならないのか」
「……まともな感覚じゃこんな所でやっていけないぞ。なるべくストレスを与えないようにコミュニケーションをとってやりながら、「使える道具」になってくれるように指導してやるしか俺たちには出来ない。そうだろ? --最初アンジェはユーリカと一緒に御伽噺を読み聞かせてやることしかできなかったのが外で遊べるようになって本格的な射撃訓練を検討できるまでに回復したし、一番最初に義体になって問題行動ばかりだったユーリカも最近はめっきり懐いてきた」
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