第2章 幼き日

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気がつくと、とある病室にいた。 ベッドの上には母が寝ている。 その横にはスーツ姿の父。母を心配そうに見つめ、手を握っている。 僕はベッドに近寄り、父が握るのとは逆の母の手を握った。 「凌太、心配かけてごめんね。お母さんは全然大丈夫だよ」 そう言って笑ってみせる母だったが、握る手は弱々しく、それが強がりだと語っていた。 「大丈夫そうで安心したよ」 精一杯の明るいトーンで言ったつもりだが、母にはどう伝わっただろうか。 本当に言いたいことも、セリフと合わないこの涙の意味も、きっと母にはお見通しなのだろう。 「・・・・・・・ごめんね」 とても小さい声で発せられたその言葉を、僕は聞こえていないふりをした。
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