第2章 幼き日

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どれくらいの時間が経っただろうか、母の手を握る手が汗ばんできた頃。 「・・・お母さんは幸せ者だ」 さっきよりも小さな声で、母はつぶやいた。 その声は弱々しいのに、やけに力強くて。僕の耳にしっかりと届いた。 きっと父の耳にも届いたのだろう。両の目からは、涙が溢れていた。 父が泣いているのを見たのは、これが最初で最後だったような気がする。 それから程なくして。 母は帰らぬ人となった。
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