15人が本棚に入れています
本棚に追加
順調に筆を走らせていると、クラスが騒がしくなり始めた。
「小川さん、またやられてるぞ」
「あいつらもよく飽きないな」
「今日は一段とひどくないか・・・」
みんなの視線は窓側の一番後ろの席、つまりは僕と反対側の席に向いていた。
その席には、長い前髪で顔を隠した女子生徒、小川結衣が座っていた。その周りを先ほどの数人の女子生徒が囲んでいる。
「ごめーん。手がすべったー」
女子生徒の一人が、バケツいっぱいに入った水を小川結衣の頭から一気にかける。
しかし、小川結衣は怒るどころか、眉ひとつ動かさずに本を読み続けていた。
その態度が気に食わなかったのか。女子生徒の一人が本を取り上げ、窓から校庭に向かって投げてしまった。
小川結衣は少し驚いていたが、鞄の中から予備の本を取り出すと、すぐに読み始めた。
女子生徒はその様子を見てけらけらと笑い、もう一度本を取り上げ、投げようとした。
だが、
「ホームルーム始めるぞ。席につけー」
担任が教室に入ってきたため、投げようとした本を乱暴に小川結衣の机に投げつける。
「ちっ」と舌打ちを残して、女子生徒たちはそれぞれの席に戻っていった。
折れ曲がった椅子に、落書きだらけの机。何よりびしょ濡れの彼女をみれば、そこで『なにか』があったことは明白だ。
しかし、
「じゃあ、ホームルームはじめるぞー」
生徒はおろか、教師さえもそのことについて触れようとしない。
まるで彼女がここにいないかのように。
小川結衣が存在しないかのように、今日も一日が始まった。
最初のコメントを投稿しよう!