彼女は温度を感じない

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「そろそろ帰ろう」 「もう少しだけ」 「結構寒いんだけど……」 「寒い、って、どういう感じ?」  彼女は温度を感じない。暑さも寒さも分からない。  少し考えて、僕は答えた。 「頭のてっぺんから爪の先まで、ひとつの感覚に支配される。体が震え出したり、じんじんとした痛みを覚えたりもして、頭が上手く働かなくなる」 「ああ、なるほど」  彼女はこちらを振り返り言った。   「好き、ってことね?」 「まあ……うん。そんなようなものかな」  上手く働かなくなった頭でそう応えると、くしっ、と目の前で小さなくしゃみの音がした。
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