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★★★
「先輩が寝てる間、とっても大変だったんですからね?」
「はい、すいません……」
今の彼女の前には俺が楽しみにとっておいたとろけるプリンと、俺が淹れたお茶の入った湯呑みが置かれている。
もちろん、それらを用意したのは俺である。
まだ、深夜の二時過ぎということもあって、営業所には俺たち以外の誰の姿もない。
もうあと三時間、四時間もすれば多くの運転士が出勤してきて慌ただしくなるのだろうが、今は静寂と平穏がこの場を支配していた。
ただ、まあ。
彼女が怒っていること以外は――だけれども。
「ひとまず、これ」
「あー、勤務割ね……」
彼女が印刷された紙の束を渡してくる。
それは運転士さんの勤務割である。
勤務を割るなんて簡単じゃないか――と思うかもしれないけれど、それは大間違いだ。
この紙の束で一日分である。
もちろん、これが全て勤務割ではないけれども、勤務割の他に貸切や特定輸送用の運行指示書であったり、点呼簿もある。
それに事務員の勤務のようにはいかない。
なにせ、一日に必要な運行数――ダイヤに対して、運転士の数が足りていないのである。
それに加えて日によって条件が刻々と変化してくる。
わかりやすい例えでいえば、年休と休日出勤――公出の数が違う。
年休が多くて運転士の数がめっさ足りない時もあれば、公出が多めで仕事が余る時も極々稀だがあり得る。
まあ、基本的には前者だけれども……。
それに加えて、一般向けの貸切バスの運行であったり、臨時バスの手配だったり、と業務が多岐に渡るのだ。
けれども、基本的には九時に出勤しても夕方、遅くて日付が変わる前には割り終わって後処理も終わるものなのだが、今日はどうも別らしい。
「で、地獄の四月一日の勤務割、いざご対面といきますか」
震えた手で紙をめくってそこに書かれた情報が正しいかチェックをしていく。
これを怠ると、最悪ダイヤに穴が空いてそこのダイヤの運行は欠車――だなんてことになりかねない。
過去にダイヤではないけれど、確認不足で学校があるのにスクールバスが手配されていなかった――なんてしょうもないこともあった。
その時はたまたま、人がいたから良かったものの、いなかったらと思うと背筋が凍りそうになる。
まったく心臓に悪いトラウマだぜ……。
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