被写体

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「ねえ、マスクをした女の子がかわいく見える理由を知っている?」 「いや……」 「人の脳は、見えない部分を勝手に補うようにできているんですって。それも、理想的な形に」 「マスクで覆われた部分に、自分にとっての理想の顔を見てしまう、ということ?」 「たぶん。……わたしが『彼女』を美しいと思うのも、そういうことなのかしらね?」  そう言うと、彼女はカメラを構え直して前を向いた。彼女の視線の先には、完璧ともいえる、均整の取れたボディの持ち主がいる。  ニットワンピースに包まれた胸はふわりとまるく、腰は折れそうなほどに細い。子鹿のような長い手足は雪の上に無造作に投げされ、そして。  本来頭部があるべき場所には何もなく、そこには鮮やかな赤が広がっていた。
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