はては縁を結びける

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 もしや場所を間違えたかと思い、辺りを見回したり、道を戻ったりしてみたがどうしても店がない。  ここ二週間で店を畳んだか、夜逃げしたか。騙されていたのではという考えが頭を過ったものの、中を見ると少し前まで人が入っていたようには見えなかった。 「すいません、ここのお隣のアパートの一階って美容室じゃありませんでした?」  どうしても気になって、遂には隣の文房具屋のお婆さんに聞く事にした。 「違うねぇ。前は小さい会社が入ってたけどねぇ。二年も前の話さぁね」 「じゃあ、この辺に美容室ってありますか? 若い女の人が一人でやってる、小さい美容室なんですけど」  そこまで言うとお婆さんは、あはは! と笑い始めた。 「姉ちゃん、狐に化かされたんだわ!」 「へ?」 「昔からこの辺には、狐の美容師が出るってねえ。うちのバアさんもよく言っとったわ」 「はぁ……」  確かに糸目で、食えない雰囲気ではあったけれど。件の美容師を思い浮かべる。長身でスラリとした体躯に、長い髪を一つにまとめた姿は尻尾のようにも見えなくもない。  狐か狸かの二択で言えば、間違いなく狐だろう。 「ここの通りを駅の方に向かえば、途中でお狐さんいるから。御礼してきな。良い事があったんだろう?」 「はぁ……」  お婆さんに言われた通り、駅の方へまっすぐ進むと確かに小さな稲荷があった。それは奇しくも喫茶店と駅の中間地点にあり、毎日通ってる道でもある。 (こんなところにあったっけか)  ひっそりと佇む神社はすっかり背景に溶け込んでいた。柱やお堂の端々から歴史を感じるが、手入れはちゃんとされているようだ。  一先ずお参りして帰ろうとした時、目についた電信柱に思わず笑ってしまった。「上結(かみゆい)町十-五」と書かれた住所表記。私と美容室の縁は初めからここにあったのだ。  どこかであの美容師がケラケラ笑っている気がした。
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