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「ね?」
私の隣に座る今日子は、左手に輝くダイヤの指輪をじっと眺めている。
「いつまで眺めてるつもりよ。
それ、そんなに嬉しいの?」
自分の後頭部に手をやり、持ち上げるような感じで髪を整えた。
自然にしているような感じに見せている柔らかなウェーブヘア。
だが、それなりに色、ウェーブの加減には、絶対にゆずれない私なりのこだわりがあり、無造作にしているように見せるのに時間をかけてセットしている。
「嬉しいわよ。やっとよ?! 7年も待ったのよ?
まだ信じられないから、昔話に出てくる狸か狐がくれたお金みたいに葉っぱになったり茎になったりするんじゃないかと思って目が離せないのよ、わかる?」
35歳の誕生日を昨日、彼氏に祝ってもらった今日子。その時に婚約指輪を彼氏からもらったのだ。
私はといえば、未だ独身。
ここのところ彼氏もいない。
横浜のデパートにある化粧品売り場に勤務している。
年々化粧品代には、お金がかかり、化粧をするのにも時間がかかる。今の職業についていられるのも時間の問題だ。
仮に辞めたとしたら?
この年齢で再就職か……。
全く気の遠くなる話だ。
「馬鹿ねぇーわかんないわよ。あきれちゃう」
ピスタチオの割れ目に別のピスタチオの殻を差し込みねじって、殻を割る。
この方法だと、ネイルが剥げないで済む。
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