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鼓動のような間隔で打ち鳴らされる神楽鈴の音が反響する薄闇の中、岩を敷き詰めて作られた壁に吊された無数の油皿の火が不気味に揺らめいていた。
布団の上に正座した弥太郎は、膝の上で拳を固く握ると、四方を覆う御簾に視線を向けた。御簾で区切られた空間を囲むように並んでいるのは、高い冠を頭に乗せた神官達の影だ。その影達は皆、からくり仕掛けの様な正確さで、手にした神楽鈴を振っている。
ふと、固く握られた拳に、薄い手のひらがそっと重ねられた。弥太郎がそちらに目を向けると、真冬に村を覆う純白の雪を思わせるような着物を身につけた白い髪の少年が、悲しげに微笑んでいた。夕日のように赤い瞳を持つその少年は自分と歳は変わらないはずだ。それなのに、その少年の微笑はいつもより大人びて見えた。
「――――!」
弥太郎は向かいに正座する白髪の少年の手を取り、何かを訴えかける。が、弥太郎の必死さとは裏腹に、その声は弥太郎自身の耳には届かなかった。それでも、向かいの少年には伝わったようで、潤み始めた赤い瞳を伏せて首を横に振る。
「――――」
少年はどこかあきらめたような顔で何か答えたが、弥太郎には相変わらず鈴の音しか聞こえない。弥太郎は少年に声をかけ続けるが、少年は下唇を噛んだまま俯くばかりだ。
――鈴の音に混じって、甲高い鐘の音が響いた。
それを合図にしたように少年は弥太郎の手を払うと、枕元に置いてある二つの朱い杯の内の一つを手に取った。手のひらほどの大きさの杯には薄黄色に色づいた液体が満たされている。少年が一気にそれを飲み干すと、透けるように白かった少年の肌が、まるで桃が熟していくように紅潮する。
惚けたような顔の少年に促され、弥太郎も残った杯を一気に呷った。強烈な苦みと喉を焼くような刺激が、薄まりながら全身に熱を伝えていく。耳に伝わる心音の速度は乱れ、鈴の音を追い越していく。真夏の日差しに肌を焼かれるような熱が全身に広がるにつれ、弥太郎の思考は次第に鈍くなっていく。今はただ、目の前の少年を「抱きたい」という思いしか、弥太郎の中に残っていなかった。
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