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頭に浮かぶ月葉美村のイメージを頼りに辰弥は車を走らせた。下調べもせず、イメージなんてあやふやな物に頼る自分はどこか狂っている気がした。あやふやなはずなのに、どこか確信めいた強い思いがあるのだから救いようがない。もしかしたら、すでに何かに取り憑かれているのだろうか……?
三時間ほど車を走らせ、森の中の細い道を進んだ先に、二台のロングバンが駐車してあるのを見つけた。わざわざこんな人気のない場所に来るくらいだ。一般の車両ではないだろう。おそらくはロケ車だ。ここに車を停めて、徒歩で村を目指したのだろう。
「ははっ……マジか……」
辰弥は力なく笑うと、バンの隣に車を停めた。イメージだけを頼りに車を走らせた結果、ロケ車を見つけてしまった。笑わずにはいられない。
辰弥は車から降り、トランクを開けようとして、ふとその手を止めた。
――いや、待て、何かがおかしい。
企画書のこと、新入りからのメールのこと、そして村のイメージのこと……自分は何かを見落としているような気がした。なぜ、今の自分はこんなにも軽率に行動してしまうのだろう。まるで脳からの危険信号を無視しているような――そもそも危険を察知できていないような――妙な感覚だった。胸騒ぎすら感じない今の状態は、一体いつから続いているものなのだろう……。
引き返すのであれば今がそのときだ。今、おかしな自分が村に入ったところで、危険に巻き込まれるだけかもしれない。……だが、新入りのことも放ってはおけない……。
「……」
辰弥は一度、自分の頬を強く叩くと、車のトランクを開けた。
「大丈夫……俺は正気だ」
自分に言い聞かせるように呟くと、辰弥は腰のベルトにマチェットを下げた。深い森の中では草木をかき分けて進む必要がある。ナイフより切れ味は劣るものの、刃の長さと厚みはナイフのそれを上回る。少々乱暴に草木を切り払っても問題のないくらい丈夫な作りだ。それに、いざというときには身を守るための武器にもなる。
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