目覚め

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 ライターの下に覚えのない資料を見つけ、辰弥は片眉を上げた。「潜入! 呪われた廃村!(仮)」と題されたそれは、心霊番組の企画書のようだった。   前の事務所で世話になっていた先輩から、よく心霊がらみの仕事が回されてくる。この企画書も先輩が持ってきた物だろう。  仕事の少ない辰弥を心配してのことか、胡散臭い仕事を押しつけられているのかはわからないが、辰弥に特別な力があるわけではない。大抵は依頼人の勘違いという「うまい仕事」だが、たまに「本物」に出くわすこともある。そのときは道具に頼るし、道具の購入資金は依頼料に上乗せする。 「……ダセェ、タイトルだ」  辰弥は企画書をめくりながら、無精ひげの生えた顎を掻く。昭和の心霊ブームのころでも、こんなインチキ臭いタイトルは付けないだろう。視聴者の目が肥えた現代ならなおさらだ。到底、視聴率が稼げる企画だとは思えないし、どうせヤラセの番組になる。それらしい場所で「ここには怨念が漂っています」とそれらしく言ってやれば満足する連中だ。  だが、辰弥はこの仕事を受けないつもりでいる。心霊番組の仕事で一度痛い目に遭わされたからだ。機材の故障や人的なミスによる事故を「霊障だ」などと言いがかりをつけ、こちらの責任を追及してきたのだ。まだ若かった辰弥はプロデューサーの剣幕に圧され、依頼料のほとんどを踏み倒されてしまった。 「ははっ……やっぱりインチキ番組だな」  企画書に目を通していた辰弥は、民俗学者――結城昭文の名前を見つけ、乾いた笑い声を漏らす。結城は民俗学者とは名ばかりで、胡散臭い「論文」を定期的に発表しているオカルト研究家だ。その書籍化された眉唾物の論文がそれなりに売れているというのが腹立たしくはあるが……。
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