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「……チッ」
企画書の心霊アドバイザーの項目に、最近雇った新人の名前を見つけ辰弥は舌打ちをする。しかも、仮ではなく、すでに決定しているようだ。
「アイツ、勝手なことしやがって……」
いくらインチキ番組でも、契約内容――特に責任の範囲――は確認しておかなければならない。ぱらぱらと企画書をめくる辰弥は、ロケ地である廃村の名前を見つけ、その手を止めた。
「……月葉美村……?」
古い映画のように村の様子が辰弥の頭に浮かぶ。大きな湖のような堀の真ん中に建つ橋のない二階建ての巨大な神社、そして堀を囲むように点在する家屋――。
――自分はこの場所を知っている?
以前、仕事で関わった場所だろうか? いや、違う。最近の記憶ではない気がする。頭の奥底に埋もれていたような記憶のはずなのに、どうしてこんなにも鮮明に思い出せたのだろうか?
――嫌な予感がした。
突然、ひび割れた通知音が鳴り、メールの受信を告げた。最近変えたばかりなのに、もう壊れてしまったのだろうかと思いながら、辰弥は胸ポケットから携帯を取り出す。届いていたのは新人からのメールだった。文面はほとんど文字化けしていたが「助けて」という文字だけは辛うじて残っていた。
すでに撮影チームは月葉美村に到着していて、そこで何らかのトラブルに巻き込まれてしまったのだろう。どうやらこの仕事は「本物」の方のようだ。
辰弥はすぐに村に向かうため、心霊関係の道具を扱うケリー・ウォンに電話をかけた。ケリーの扱う物は出所の怪しい遺物が多かったが、それに助けられたのは一度や二度ではない。
『ニーハオ、辰弥。何か入り用?』
電話がつながると、流暢な日本語を話す女の声が聞こえてきた。
「あぁ、今から言う物を至急用意してもらいたい。在庫がある物だけでいい。すぐに出発したいんだ」
辰弥の切羽詰まった様子を感じ取ったのか、ケリーは声色を改めて先を促す。辰弥が必要な物を伝え終わると、ケリーは「二時間でそっちに向かう」と言って電話を切った。
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