75人が本棚に入れています
本棚に追加
引き出しを開けたり、ファイルをめくって企画書を探す辰弥を「もういいわ」と言ってケリーが止める。
「辰弥が捜し物をすると一時間はかかるから」
ケリーは呆れたように溜息を吐いて続ける。
「村の名前は? 私も何か知ってるかも」
「月に葉に美しいと書いて、月葉美村だ」
「ふぅん……知らない村だった」
ケリーは両手を上げて肩を竦めると、携帯を取り出した。ネットで検索するのだろう。検索を終えたであろうケリーが不審げな顔で眉を寄せる。
「……ねぇ、村の名前、間違ってないの?」
「間違いは無い」
企画書にも「月葉美村」と確かに書いてあったし、それに――
「……そう」
ケリーは首を傾げながら辰弥に手招きする。辰弥が隣に座ると、ケリーは手に持った携帯の画面を辰弥に向けた。
検索結果――ヒット数0
この現代において、どんなに些細なことでも、ネットには何かしらの情報はあるはずだ。それなのに検索しても何もヒットしないというのは不可解だった。
どうしてそんな村のことを自分は――
「ねぇ、番組スタッフ達はどこでこの村のことを知ったのかしら……」
ケリーが険しい顔を辰弥に向ける。ケリーもこの件の不穏さを感じ取ったのだろう。
「さぁ……、ただ、企画書には結城昭文の名前があった。あのインチキオカルト研究家だ。そいつが地道に足で調べたんじゃないのか?」
辰弥の意見にケリーは納得していないようだった。無理もない。辰弥自身、自分で言ったことなのに納得できていないのだから。
ケリーはそっと目を伏せた後、作ったような笑顔を辰弥に向けた。
「それで? そんな場所もわからない村にどうやって行くつもり?」
「……場所なら知っている」
なぜだかよくわからないが、月葉美村の場所は何となくわかっていた。単なるイメージかもしれない。そんなものに頼ろうとするなんて自分でもどうかしていると思う。
「……どこで、村の場所を?」
「そうだな……千里眼に目覚めたからさ」
茶化すように片目を閉じてみせた辰弥は、「しまった」と後悔した。ケリーの顔がみるみる曇っていく。ただでさえ、今回のことは不安材料が多い。嘘でも「企画書に書いてあった」と言ってやればケリーも安心できたかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!