望月の儀

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「なっ……!」  突然、両肩に衝撃を感じ辰弥は後ろによろめいた。かすみに両肩を押されたのだと悟ったときには、辰弥の手は剣からするりと離れていた。 「だから、弥太郎には……、これからを幸せに生きてほしい」  剣の柄から温かい光が溢れ、本殿を満たしていく。その光の向こう側で、かすみは安堵したように赤い目を細めた。 「かすみ!」  立っているのがやっとだった辰弥はそのまま重力に引かれるように後ろに倒れる。懸命に手を伸ばす辰弥だったが、その手がかすみに届くことはなかった。  優しい光に沈む直前、辰弥はかすみの口が呟くように動くのを見た。  ――大好きだよ。  微笑むかすみの口がそう動いたように見えた。  ――止まっていた時間が動き始めたのだ。
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