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夕日が強く、強く室内へと差し込み、何もかもを明るく染めて。ふと、時の流れを実感する。分厚いガラス瓶の重厚さと冷たさとが緩和され、空気を柔らかいものへと変えていく。
「黄丹、橙――赤より黄……山吹……」
行き着く先は山吹色。結局は独創性の欠けた、そのままの色しか出て来ず。これでは進歩がみられないのも仕方のないこと、と自嘲する。
――――。
どうすればこの空気を。絵に乗せることができるだろうか。色ではない。空気に色は付かない。生まれる色艶を想像しながらパレットの絵具に乾性油を足していく。“見えない色”を書くのも、画家としての技術だろう。
モチーフには少し合わないだろうが、目的は作品の完成じゃない。完成に至るまでの経験、その積み重ね。いつでもその引き出しを開けられるよう、しっかりと中身を詰め込んでおかなければ。
そう自分を叱責して、イーゼルに置いていたナイフを手に取る。絵具を乗せた丸い切っ先の、その絵具の隙間から、山吹の反射光が煌めいた。
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