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「いや、いいんだ。画家はこだわりがある方が丁度良い。それで……“鳥”の絵はどうなったかな」 「……すいません、まだ満足のいく出来のものが無くて」 『君にとって最高と呼べる絵を、私の為に書いてほしい』  それが、瀬尾邸に住むにおいての交換条件だった。いつまでといった条件は無い、満足のいくまで、自分の口から満足という言葉が出てくるためなら、いくらでも援助は惜しまないと言ってくださった。  もしかしたら、最初から期待はされていないのかもしれない。ただ、同情で住まわせる上で、こちらに罪悪感を抱かせないための仮初(かりそめ)の契約なのかもしれない。けれども、そう言われた以上は、自分も全力で恩を返したかった。 「自分では、まだまだ時間がかかりそうです」  “鳥”というのは旦那様に提示されたものではない。自分が書きたいと言ったのである。動物があまり好きではないと言ったものの、鳥類だけは例外だった。昔に一度だけ、まさに目の前で鳥が飛び立つさまを見たのである。その瞬間の、静から動への変化。硬さが取り払われ、柔らかさへと変わっていく過程が、とても美しく見えたのだ。 「まだ若い。ゆっくりと、時間をかければいい。……そろそろ食事の時間だ、片付けたら下に降りてきなさい」 「はい、わかりました。旦那様」  その隅々まで再現したい。それは一つの目標であり、目的だ。その羽毛の一本一本から生み出される柔らかい光沢を、もしも目の前のキャンパスに映し出せたら。それ以外の全てが、僕の中で、この一つだけに集約されていた。
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