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連作
雪の降る日だった。
白一色の風景にレンズを向けている少女を見かけた青年は、その美しさに思わず声をかけた。
B「随分、殺風景なところを撮っているんですね」
A「そうですね、実はこれ連作なんです」
B「連作?」
A「ええ、あそこに折れた樹が見えるでしょう?」
B「ありますね、随分大きな樹だったみたいですね」
幹の根元辺りからぽっきり折れた木は、一抱えもありそうだった。
A「はい、あの樹の成長を、ずーっと撮り続けていたんです。でも、この間の台風で折れてしまって……」
B「そうだったんですか。寂しいですね」
A「いえ、春になればきっと新芽が出ます。そうすれば、またあの樹は蘇りますから」
B「なるほど。じゃあいつかきっと、また大きな樹になりますね」
A「ええ、その時が楽しみなんです」
B「連作はまだまだ続きそうですね」
A「はい。やっぱり、苗木の頃から見守ってきた樹ですから……」
B「なるほど……。ん?」
B「ちょっと待って。君いくつ……」
その後、青年の姿を見た者は……いない。
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