1人が本棚に入れています
本棚に追加
息を切らせて村へ帰れば、すっかり夕食時だというのに広場はざわざわと騒がしい。
見慣れない馬車に興味を惹かれたらしい村の子供と、いつも酒場によっていく男達が店に入るのを躊躇しているのか人だかりができていた。開けっ放しの出入り口からは旅人が着るローブの背中と、父の声がもれ聞こえてくる。
「うちは商売人が来たときに貸す倉庫と、寝る部屋が使えるだけの酒場でね。なんで宿っていってもあんまりそれらしいことは出来ませんが、酒と料理は出せますよ」
「こちらも長い旅の途中ですから、このような森の近くで野宿となれば獣が心配でした。寝床があって酒が飲める、これが一番ありがたい。今夜はお世話になります」
「私からも感謝を申し上げます。日没に捉まりそうだった私達が、夕日に輝く黄金原に誘われて獲たこの出会いも精霊の導きでしょう。修行中の身故たいしたことは出来ませんが、豊穣を讃える詞章など謡わせてくださいませ」
女性というよりも少女というのがふさわしい澄んだ声が耳へとどく。
店の中を覗き込めば数人の旅装束の中に一人、繊細な模様の編みこまれた祭服を纏った人物が佇んでいた。
シショウ、とはなんだろうか。
それに彼等は……
最初のコメントを投稿しよう!