今は昔の語りモノ

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「はいはい、もうできあがってる奴はちっと黙れよー。いいから。座れ、座れって! 」  言葉も聞かずなぜか乾杯をはじめる連中を、少々乱暴ながら静かにさせた。  そこへこの場には似合わない雰囲気を持つ祭服の少女、噂の語り部が歩み出る。彼女の直ぐ後ろには、他の同行者よりも少し年嵩に見える騎士が続いた。  魔法の輝きで照らされた室内をさっと見回し、一度礼をしてから口を開く。 「私たちは旅の途中、こちらの村へ一晩の宿を求め受け入れていただいた者です。まずは余所者を迎えて下さった皆様にお礼を申し上げます。この土地へ来るまでに多くのものを目にしましたが、夕日の中に輝くこれほどまでに美しい小麦畑の丘はありませんでした。この村の皆様と、導いてくださった豊穣の精霊へ感謝を込め、語り部として詞章を謡わせてください」  村から出たことも無い者ばかりで他を知らず、語り部がどのような者なのかもまた理解できたか分からないが、皆で大事に守り育てた財産が讃えられることはとても嬉しいものだ。  自分を含め、聴衆は静かに顔を見合わせていたがもちろん反論などなく、むしろ期待しながら少女の淡い瞳を見つめ返す。  住民たちの無言のままの声を受け、後ろに控えていた騎士が何時の間にか手にした、鈍く輝くゴブレットを受け取った。  彼女の祭服に似た、細かな装飾の施された酒杯は、少女の手にも容易に収まる大きさをしている。  そこへ、少女が称えた夕映えの輝きを秘めた液体が、ゆっくりと静かに流し込まれていった。
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