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豊穣を讃える詩を語り終えると、不思議な魔法と旋律にすっかり目の冴えた年少の子供に強請られるまま、少女は唇を開いた。若い騎士が懐から笛を取り出し、気さくな笑顔で口上を述べ語り部が引き継ぎ謡いだす。
夕闇に蔓延る魔獣を倒し皇女を救い出す騎士の英雄譚
異国の海を渡り歩き隠された秘宝を収集する女海賊
病に蝕まれながらも神へ捧げる曲を作る宮廷作曲家
語り部の背後に付き従っていた影は大きく伸縮し別の人物として動き出す。時に困難に躓き深手を負いつつも進む騎士となり、見渡す限りの海を船で割って異国を旅し、命を燃やし尽すような新たな旋律を生み出す。
一時は自分の無知と子供染みた羞恥に顔を背けたが、どうしてもまた少女を見つめずにはいられなかった。
この場の誰もが楽しげに少女の語りに聞き入る。熱心な子供のまなざしに自分は為れていただろうか。微かな頬の熱を感じつつも揺らめく影を熱心に観察するふりをして、あの青く澄んだ瞳を盗み見ていた。
神秘的な雰囲気に酔いの覚めていた男たちも再び杯を交わし、はじめは酒場の騒々しさに慣れず子供の世話を焼いていた女たちすら物語へと引き込まれていった。
室内に篭る熱気は宵闇の静けさを忘れて、語り部という者の魅せる言葉に酔いしれる。
このまま酒宴が続けば明日は誰もが床に伏せるだろうが、この一夜の幻を前にして、気にする者は誰もいなかった。
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