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最近は医師と胚培養士の作業も分業化されていて、それはそれで合理的なんだろうけど、私は全てのプロセスを自分でやることに拘っている。昔はみんなそうだったんだし、やっぱり、一つの生命を誕生させるという崇高な使命については、極力他人を介在させずに、自分の手で行いたいと思う。私のところに来てくれたご夫婦や、生まれてくる生命、少子化に悩むこの国、そして自然そのものに対する責任感、と言ったら大げさだろうか。まあ、単に色んなことを人任せに出来ない性分なのかもしれない。
とにかく、今現在、私は医師としての自分のやり方に自信を持っているし、ささやかな誇りもある。そしてそんな自分は、多分幸せなのだろうと思う。
だが、正直に言うと、今回は結構緊張した。
去年の12月ごろ、とある夫婦が不妊治療の為に、初めて私のところに訪れて来た。
面談に先だって、診察室で問診票に目を通していた私の目は、そこに記入された夫婦の名前に惹きつけられた。
翁長卓哉・真理。
(あれ、これってひょっとして……)
夫婦とも私と同じ年齢。
多分、間違いない。
「翁長さん、どうぞお入りください」
少し緊張しながら待っていると、診察室の扉が開いて夫婦が入ってくる。その途端、私の顔を見た奥さんの方が、頭の天辺から叫び声を上げた。
「佳子ちゃん?やっぱり佳子ちゃんよね!」
「やっぱり真理ちゃんだったのね。卓哉君も!」
不妊治療の相談に来た夫婦は、私の高校の同級生だったのだ。
「いや、本当に久しぶり。あれからもう二十年近くになるなんて」
「なのに、あたし達のクラスって一回も同窓会やってないんだよね。他のクラスなんか何度もやってるらしいよ」
「やっぱり旗振り役がいないとだめだよね」
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