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番外編 年越し小ネタ
月村病院には、正月休みなんてものはない。
勤務医や多くのスタッフには交代で休んで貰っているが、何せ町で唯一の医療機関だ。おまけに高齢者の多いこの数田美町では、年末年始も万が一に備えて病院を閉めてしまうわけにはいかない。
その為、院長である父と英司、そして長年勤務してくれている一部の看護師や事務員は、年末年始もほぼ毎日、通常通りの勤務が続く。
今年は年末にかけて強い寒波がやってきた所為か、体調を崩しがちな町民が例年より多かった。それをいつもより少ないスタッフでこなさなければならないので、英司が病院を出たときは、既に夜十時半を過ぎていた。
大晦日だというのに、明日も朝から出勤だし、ゆっくり年越し蕎麦を味わいながら新年を迎える余裕もない。
自宅の駐車場に車を停め、玄関を開けると、玉子の甘い匂いがフワリと鼻先を掠めた。
「あ、英ちゃんおかえり」
エプロン姿の芳がリビングから出てきて、いつものように労いのキスで迎えてくれる。芳が近づくと、甘い匂いは一層強くなった。
「いい匂いだね。芳さんのフェロモン、いつから玉子焼きになったの?」
「そのフェロモン、色気ある?」
「僕は玉子でも鰹出汁でも構わないけど」
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