第一話

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「こんな早朝に散歩? 見た目若いのに、爺さんみたいだな。でも神社の人じゃなくて良かった。さすがに無断で寝泊まりするのって、罰当たりかなーと思ってたからさ」  初対面で年寄り扱いされたことにはムッとしたが、それよりも後半の彼の言葉が気になった。 「寝泊り……? ここに泊まってたんですか?」 「そうそう。そこのお社の裏でコッソリ」  笑いながら、男が奥にある古びたお社を指差す。裏に居たから気付かなかったのか、と納得しかけたが、男の服装はTシャツにロング丈のカーディガンを羽織っただけという薄着だ。英司の方は、ダウンを着ていて丁度いいくらいだというのに。 「……その格好で?」 「ああ、俺別にその辺で寝るの慣れてるから大丈夫」  飄々と答えて両手を広げて見せる彼は、鞄すら持っていない。この町の誰かの親族や知り合いなら、その人の家を訪ねるだろうし、手ぶらでおまけに神社で野宿している理由が全くわからない。しかも「慣れてる」というのは、まさか外で寝ることに、ということなのだろうか。  明らかに不審者を見る顔をしていたのだろう。英司の顔を見て再び小さく噴き出した男は、細い肩を竦めた。     
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