第二話

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「今、血圧を下げる薬を毎日服用してもらっていると思いますが、今朝も飲まれました?」 「はい、月村先生から毎日飲むよう言われてますので」 「今日の血圧が少し低めなので、薬の副作用の可能性が高いと思います。薬の所為で、血圧が一気に下がり過ぎているのが原因だと思うので、ほんの少し薬の量を減らしましょう」 「……減らしても、大丈夫なんですか?」 「血圧を下げる薬を服用されている方には、過降圧といって血圧が下がり過ぎる副作用が出る方も結構居ます。その場合、桜井さんのようにめまいやフラつきのような症状が出てしまうので、今日新たに処方する薬の量で、一度様子を見て下さい。薬を完全に止めるわけではないので、大丈夫です」 「そうですか……わかりました、ありがとうございます」  ゆっくりと椅子から立ち上がって英司に小さく頭を下げる桜井に、「お大事に」と英司も座ったまま軽く会釈する。すると、診察室を出る直前に、桜井が「あのう……」と遠慮がちに振り返った。 「明日、月村先生の診察はありますか?」  困惑と少しの不安が滲む桜井の表情を見て、英司はそこでやっと、彼女が最初に寄越した挨拶の意味を理解した。  桜井は、落胆していたのだ。自分を診てくれるのが、父ではなく英司であることに。     
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